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(15)六ポケット家族 その3

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 翌日の朝、八時ちょうどの食堂には、みんなが集まりお互いに、

「お早うございます」

 と言って、昨夜と同じ席に腰掛けた。するとウェイターが来て挨拶した。

「お早うございます。ご飯はお代わりできますので、あちらの方に置いてあります」

 と言って、その場所を指差した。雅之たちもその場所を確認してから、

「お早うございます。分かりました」

 と言った。早速、雅之の挨拶で朝食が始まった。メニューはご飯と鮭の塩焼き、ほうれん草のお浸し、佃煮などで味噌汁もあった。そして隼人には離乳食が揃えてあった。二十分くらいで、みんなが食べ終わると雅之が、

「十時に出発したいので、ロビーには十時に集まりましょうか」

 と言ったので、みんなは食堂をあとにして、それぞれの部屋に戻って行った。


 十時になったので源一郎と和子、そして福山夫妻がロビーに行くと、すでに雅之がフロントで会計をしているところだった。そして夕子はロビーで隼人を抱っこしていた。雅之が会計を済ませると、みんなはフロントの女性に一礼してから旅館をあとにした。駐車場に停めてあるワゴン車の後ろに荷物を入れると、みんなは昨日と同じ座席に腰掛けた。雅之がワゴン車を発進させると、

「それでは、これからガラスの森美術館に行きます。と言っても三分くらいで着くと思います」

 と言ってから、国道百三十八号線に行った。そこから二分程でガラスの森美術館の駐車場に着いたので、雅之はワゴン車を停めた。源一郎と和子、そして福山夫妻が降りると、雅之と夕子は隼人をベビーカーに乗せた。みんな揃って、ガラスの森美術館の入口まで歩いて行った。雅之がチケット売り場で入場券を買ってから源一郎と和子、そして福山夫妻に渡した。みんなは入場券を改札係に渡してから、美術館の中に入った所で雅之が、

「私たちは隼人がいるので、見学するのに手間取るかもしれません。お父さんやお母さん、福山さんたちは自由に見学してもらって、十二時にこの場所に集まることにしましょう」

 と言うと利律子が、

「そのほうがいいわね。それじゃ、私たちはガラスが煌めいている橋を渡って、美術館に行きましょうか」

 と言った。早速、利律子が先頭を歩き、続いて正と源一郎、和子が歩き出した。そのあとを追って、雅之は隼人が乗っているベビーカーを押して、夕子がついて行った。


 みんなはヴェネチアン・グラス美術館に入ると、すでに多くの観光客が、ひと言二言しゃべりながら、思い思いに作品を見ていた。暫らく見ていると、美術館内のホールでイタリア人が水とグラスを使用して、音楽を奏でる演奏会が始まった。

 演奏会が終わると、源一郎と和子、そして正と利律子はヴェネチアン・グラス美術館を出て、静かな佇まいの庭園に行った。雅之と夕子は、隼人のおむつを取り換えるのにベビールームに行った。

 その後、源一郎と和子は現代ガラス美術館に、そして正と利律子はミュージアム・ショップに行った。雅之と夕子は、ベビーカーに隼人を乗せているので、ようやくヴェネチアン・グラス美術館を出たところだった。


 現代ガラス美術館を見学した源一郎と和子は、外にある階段を下りてリヴィオ・セグーゾ庭園に向かった。途中紫陽花の花が散ってしまった庭園を通り、早川の流れが見える場所に来た。そこには子供連れの家族がたくさん来ていた。源一郎は石畳の上に標高六三四mと書いてあるのを見て、

「おや、東京スカイツリーと同じ高さだ。周りが平坦だから、ここがそんなに高いとは思わなかったな」

 と言ったので和子も、

「あら、本当だわ。そういえば暇な時に、ネットで六三四mの山を検索したら、新潟県にある弥彦山と、それに隣接する多宝山も六三四mと書いてあったわ」

「え! そう。和子がネットで調べているなんて、ちっとも気が付かなかった」

「そうでしょ、あなた。これからはネットの時代よ」

 と言って和子が笑った。それから二人は木蔭に入り、早川のせせらぎを聞きながらペットボトルを取り出して、冷たいウーロン茶を飲み始めた。

 同じようにミュージアム・ショップを見学した正と利律子は、外にある階段を下りてリヴィオ・セグーゾ庭園に向かった。途中紫陽花の花が散ってしまった庭園を通り、早川の流れが見える場所に来た。そこには子供連れの家族がたくさん来ていた。正は石畳の上に標高六三四mと書いてあるのを見て、

「おや、東京スカイツリーと同じ高さだ。これは朝から演技がいいな」

 と言ったので利律子は、

「あら、本当だわ。今度、東京スカイツリーに行きましょうか」

 と言った。それから二人は木蔭に入り、早川のせせらぎを聞きながらペットボトルを取り出して、冷たい緑茶を飲み始めた。

 その頃、雅之と夕子、そして隼人は体験工房を通り、広場にあるテーブルに腰掛けて休憩していた。隼人をベビーカーに乗せているので、階段を下りてリヴィオ・セグーゾ庭園に行くのは中止にしたのだ。ということで雅之と夕子はペットボトルを取り出して、冷たいウーロン茶を飲み始めた。飲み終わると、夕子は隼人にミルクを飲ませた。


 その後、源一郎と和子、そして正と利律子は、階段を上がり池がある場所に来た。この夏の暑い日に麦藁帽子を被り、雑草を刈っている作業員がいた。源一郎たちは軽く会釈をして、作業員の横を通って池に架かっている橋を渡り、カフェテラッツアの場所に来た。源一郎が腕時計を見てから、

「今、十一時半だが、次のカンツオーネ演奏は十二時だから聴けないな。折角来たのに残念だ」

 と言ったので正が、

「おや、岩田さんがカンツオーネに興味があるとは」

 すると和子が苦笑いしながら、

「駄目よ、主人はカンツオーネという柄じゃないわ。冗談を言っただけよ」

「そうよね。私たちは、そのような高尚な趣味なんかには、ほど遠いわよね」

 と言って、利律子も苦笑いしていた。

 そうこうしているうちに十二時十分前になったので、みんなは集合場所のガラスの森美術館出口に来た。みんな揃ったところで雅之が、

「それでは駐車場に戻り、箱根湯本にある食堂に行って昼食にしましょう」

 と言ったので、みんなはガラスの森美術館を出て駐車場まで歩いて行った。


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 駐車場に着くと、みんなはワゴン車に乗った。雅之はワゴン車を発進させ、ガラスの森美術館をあとにした。ワゴン車が国道百三十八号線を少し走った所で雅之が、

「お義父さん。天気はいいし、道路は空いているし、隼人も泣かずに静かにしているし、ドライブにはちょうどいいですね」

 と言うと正が、

「そうですね。私は窓の景色を見ているだけだから楽ちんです」

 と言って笑った。

 二列目座席にいる源一郎が、

「ガラスの森美術館で買ったウーロン茶が残っているから、今のうちに飲んでおこう」

 と言うと和子も同じように、

「そうね。喉が渇いたから私も飲もうかしら」

 と言ったので、二人ともバッグからペットボトルを取り出した。

 三列目座席にいる夕子が、

「隼人はガラスの森美術館でミルクを飲ませたから、すぐ寝るかもしれないわ。そうしたら、私たちもお茶を飲みましょうか」

 と言っているそばから、隼人が目を閉じて寝てしまったようだ。それを見て利律子が、

「あら、もう。隼人は寝たみたいだわ」

 と言ったので、二人ともバッグからペットボトルを取り出した。ようやくワゴン車が箱根湯本に差し掛かった所で雅之が、

「お義父さん、駐車場に車を停めて、食堂に行きましょう」

「そうですね。もうすぐ一時になりますから、食堂は空いてくるでしょう」

 正が言った。結局のところ今日の昼食も昨日と同じように、そば食堂に入り源一郎と和子はざるそばを、正と利律子はかつ丼を、そして雅之と夕子は天ぷら定食とカレーライスを注文した。隼人には離乳食のほかにカレーライスを少し食べさせるのだろう。


 昼食が終わると、雅之が支払いを済ませ、みんなは食堂を出てお土産店に行った。お土産店に入ると、年配の女性店員が和子に声を掛けて来た。

「こんにちは、お孫さんとお揃いで。六ポケット旅行ですか?」

 和子は一瞬ためらったが、

「えっ! どうしてお分かりに?」

「はい、みなさまが食堂を出て来るのが見えましたから。それはそうと、可愛いお孫さんですね。お年は幾つですか?」

 と訊かれたので和子が、

「まだ七カ月なのよ」

「まあ、そうなの。でも、しっかりしているわね。目元がぱっちりしているわ」

 と言われれば悪い気はしない。源一郎は会話を和子に任せて、蒲鉾を三個買うことにした。それを見て福山夫妻も近所のお土産などに蒲鉾を六個も買った。そして雅之と夕子は、ベビーカーに乗っている隼人を見守っていた。という典型的な六ポケット旅行の様子を見ていた別の女性店員が来て、

「この暑い日に、お店に寄って頂き有難うございます。お孫さん一人に、ご両親と祖父母さんの六ポケット旅行だわ。それにしても可愛い男のお子さんですわ」

 と言われたので、源一郎と正は気分よく支払いを済ませると、二人の女性店員が揃って、

「有難うございました。お孫さんが大きくなったらまた来てください。元気で六ポケット旅行を楽しんでくださいね」

 の声をあとにして、みんなは先程停めたワゴン車の駐車場に戻って来た。


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 駐車場に着くと、みんなはワゴン車に乗った。雅之がワゴン車を発進させると、

「お義父さん。あとは小田原厚木道路から東名高速道路に入り、横浜町田ICまで道路は下りですから、空いていると思います」

「そうですね。三時頃に着くでしょう」

 二列目座席にいる和子が、

「朝早くから旅館の周りを散歩したり、ガラスの森美術館でも、あちこち見学したりで疲れたわ。こういう時は、お茶を飲んで寝るのが一番ね」

 と言って、和子はバッグからペットボトルを取り出した。それを見ていた源一郎も、バッグからペットボトルと柿ピーを取り出して、

「俺も同じようなものだ。こういう時の柿ピーは特別に美味いからね」

 三列座席にいる利律子と夕子も、隼人が大人しくしているのを見て利律子が、

「岩田さんたちも、お茶を飲んでいるようだから、私たちも飲もうかしら」

「そうね。朝から動き回っていたので疲れたわ。隼人は今のところ大人しくしているから」

 と言って、利律子と夕子もバッグからペットボトルを取り出した。

 そうこうしているうちに、ワゴン車は厚木ICから東名高速道路に入った。その後、ワゴン車は海老名市と大和市を通り、横浜町田ICに着いた。横浜町田IC出口はいつもの通り渋滞していたが、家に着いたのは午後三時を少し過ぎただけだった。


 雅之が家の東玄関前にワゴン車を停めると、みんなはワゴン車から荷物を取り出した。源一郎と和子が荷物を持って一階に、雅之は荷物を、夕子は隼人を抱いて、そして福山夫妻も荷物を持って二階に上がった。荷物を運び終わると、雅之はワゴン車を返すためレンタカーショップに行った。雅之が帰って来るまで二階のダイニングには、雅之を除く六人が四角いテーブルを囲んで、冷たいお茶やジュースを飲んだり、お土産店で買った蒲鉾などを食べたりした。

 それから夕子は、隼人のおむつの取り替えが終わると、隼人をベビーチェアに腰掛けさせてミルクを飲ませた。そして源一郎と和子、福山夫妻たちは今日観光した場所について話し合っていた。それから暫くすると、雅之が帰って来て椅子に腰掛けた。それを見て利律子が、

「芦ノ湖では隼人が大きな目をして湖を見ていたけど、隼人がいたから遊覧船に乗っても楽しかったのよね」

 と言うと正が、

「そうそう。俺たち六人だけの旅行では、周りの人たちはおかしな組み合わせの夫婦がいるな、と思っただろうな」

「というと、やっぱり隼人が旅行の中心人物になるのね」

 和子が言ったので源一郎が、

「まったくその通りだ。六ポケット旅行とは良くいったものだ」

 と言って、ミルクを飲み終わって静かにしている隼人を見ていた。それから雅之が腕時計を見ると五時を回っていたので、

「それでは、これで終わりにしたいと思います。昨日と今日は暑い中、隼人の旅行に来て頂き有難うございました」

 と言ってから、雅之たちは後片付けを始めた。そして後片付けが終わると、みんなは東玄関から外に出た。福山夫妻が車に乗り込むと、隼人を抱っこしている夕子を始め、雅之と源一郎、そして和子たちは、福山夫妻の車が次の交差点を左折した所で、家の中に入って行った。

 その4に続く。


by stone326 | 2018-02-04 09:07 | 物書きへの道


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