(17)六ポケット家族 その5

     4


 お正月を過ぎた頃から、隼人は上手に歩けるようになった。と言っても、それは家の中にいる時だけで、保育園の送り迎えは源一郎と和子が、隼人をベビーカーに乗せている。そして二月になると、保育園で風邪が流行っていた時は、隼人も風邪とはいかなくても、朝方に熱を出して保育園を休む日が、今年の冬は三日くらいあった。


 また、時折夜泣きをするようになり、一階に住んでいる源一郎と和子も心配な日々を送っていた。それで和子は子育てしていた頃を思い出したり、ネットで幼児の夜泣きを調べたりした。源一郎は子育ての記憶が殆どなかったので、ネットで幼児の夜泣きについて検索した。その結果、これは幼児が成長して行くためのプロセスであり、特に心配する必要はないとのことだった。まあ、今の時代はネットで子育てに関する情報を知ることができるので、雅之と夕子も当然調べていることだろうと思い、源一郎と和子は取りあえず安堵した。


 三月も半ばを過ぎた土曜日の午後、少し肌寒い日だったが雅之と夕子、そして源一郎と和子は、隼人をベビーカーに乗せて近くの公園に行った。初めてのことなので、あまり人が来ない小さな公園にした。いわゆる公園デビューである。

 五分ほど歩いて公園に着くと、雅之が隼人を抱っこして地面に下ろした。隼人は暫らくの間、立ったままじっとしていたが滑り台に向かって、よちよちと歩き出した。それを雅之たちが見守るようにして追いかけた。滑り台はまだ無理なので、今度は源一郎が隼人を抱っこして、ブランコの前に連れて来て地面に下ろした。ここでも隼人は少しの間ブランコを見ていたが、今度は鉄棒のある場所まで、よちよちと歩き出した。それを見て和子が隼人を抱っこして芝生の上に下した。

 隼人は芝生の上を恐る恐る歩き始めたが、転ぶようなことはなかった。小さな公園だったが、砂場はまだ早いので雅之たちは家に帰ることにした。雅之は隼人を抱っこしてベビーカーに乗せると、

「初めての公園にしては上手く歩けたと思う。保育園でも公園に連れて行っているから、だんだん慣れてくるだろう」

 と言った。


 そして隼人が保育園に通ってから一年経った頃、恩田川沿いの桜も満開になり、保育園では園児を連れて、恩田川沿いの桜並木に行ったようだ。雅之はその週の土曜日か日曜日に、隼人を連れて恩田川に行こうと思ったが、あいにく二日とも雨だったので、お花見に行くのは止めることにした。満開の桜が散ったあとは、天候も春爛漫の暖かさで、隼人は祖父母に連れられて、元気に保育園に通っていた。


 ゴールデンウィークを前にした二十四日の朝、隼人は朝から元気がなく、朝食も少ししか食べられなかった。夕子が体温を測ると、三十六・五度で保育園に連れて行っても良かったが、雅之と相談して保育園を休ませることにした。したがって、夕子が隼人の昼食を作り、雅之は一階に下りて祖父母に、隼人の子守と昼食を食べさせるようお願いした。


 雅之と一緒に源一郎と和子が二階に上がって行くと、隼人は布団に座ったまま大人しくしていた。七時半になると、雅之と夕子は会社にいくため家を出た。両親がいなくなったあと、隼人は暫らくの間TVを見ていたが、すぐに布団の中で寝てしまった。それを見て早速、源一郎が言った。

「隼人君は保育園で何かあったのだろうか? このところ夜泣きが収まったと思っていたら、昨夜は少し泣いていたようだから」

「そうね。まだ小さいのにストレスがあるのかしら」

「まあ、そんなことはないと思うが。体調が悪いのは確かだ。いつも好き嫌いなくたくさん食べていたのに」

「このまま治ってくれれば、いいけど……」

「とにかく、平熱なんだから大丈夫だろう」

「それじゃ、お父さんに隼人を見てもらって、私は台所の片付けをしてくるわ」

 と言って和子は一階に下りて行った。


 隼人が寝てから三時間くらい経っただろうか。隼人が起き出したので、源一郎と和子は二人係で隼人のおむつを取り替えた。少し寝たのと、おむつを取り替えたのとで、隼人はようやく元気になったようだ。そして十二時になったので、源一郎と和子が隼人に昼食を与えると、いつものように美味しそうに全部食べてしまった。

 それから隼人は、先程までのぐったりとした姿が嘘のように、おもちゃで遊んだり、部屋の中を歩き回ったりしていた。そして隼人の子守を和子がやっている間に、源一郎が一階に下りて昼食を。源一郎が昼食を済ませると、今度は源一郎が隼人の子守をして、和子が一階に下りて昼食を摂った。


 午後四時になると、夕子が会社を早退して帰って来た。夕子は隼人が元気になったのを見て言った。

「お義父さんとお義母さん。有難うございました。隼人が元気になって良かったです」

「お昼はみんな食べたし、おむつも二回取り替えました」

 和子が言うと源一郎は、

「あれから三時間くらい寝ただけで、すっかり元気になったから、もう大丈夫だ」

 と言って、和子と一緒に一階に下りて行った。一階のダイニングに行き、テーブルの椅子に腰掛けると源一郎が、

「不思議だなあ。幼児というのは、あんなに元気になるものだろうか? たった三時間寝ただけなのに」

「三時間というと、レム睡眠が二回あったのね。これも人類共通の無意識がなせる技なのかしら」

「おや、和子、耳慣れないことを言うね。それは確か、ユングがいうところの集合的無意識のことだ。そして個人的無意識というのがあるけど、隼人の場合はまだ個人としての意識が少ないから、全て集合的無意識によって守られているのかな」

「まあ、あなた。凄いわね。私なんか集団的自衛権と個別的自衛権の区別さえつかないから、集合的無意識とか個人的無意識と言われても、さっぱり分からないわ」

「な~にね。さっき、和子が一階に下りて行った時に、ネットで調べておいたのさ」

「あら、そうなの? そうだよね。私もあなたがそんなに知識があるとは思っていないもの」

 と言って、和子はコーヒーを淹れることにした。

 その6に続く。


[PR]
by stone326 | 2018-02-06 08:45 | 物書きへの道


マカロニ・ウエスタンの歌詞とその魅力について


by stone326

プロフィールを見る
画像一覧

このブログについて

本ブログはマカロニ・ウエスタンの映画の主題歌(日本語訳)を紹介します。

本ブログの歌詞は、株式会社IMAGICAエンタテイメント発売のDVDから使用しています。

本の紹介

FLNG船 二〇二二年


ご注文はこちらから


北極熊はどこへ行ったの(第一部)


ご注文はこちらから


勇と美穂のスマホ渡り鳥


ご注文はこちらから

ライフログ


マカロニ・オヤジとつぶやきの用心棒(一)


マカロニ・オヤジとつぶやきの用心棒(二)


ジュリアーノ・ジェンマ特集


フランコ・ネロ特集

カテゴリ

全体
物書きへの道
各駅停駅メロ小説
マカロニ・ウエスタンの歌詞
北極熊はどこへ行ったの
未分類

最新の記事

(57)朝日新聞出版 「マカ..
at 2018-05-13 09:44
(56)朝日新聞出版 マカロ..
at 2018-04-27 08:39
(31)「北極熊はどこへ行っ..
at 2018-02-25 08:25
(30)「北極熊はどこへ行っ..
at 2018-02-24 08:11
(29)「北極熊はどこへ行っ..
at 2018-02-23 08:37

以前の記事

2018年 05月
2018年 04月
2018年 02月
2018年 01月
2016年 12月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 01月
2015年 10月
2015年 03月
2015年 02月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2013年 12月
2013年 08月
2012年 11月

検索

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

映画
シニアライフ

画像一覧