(21)六ポケット家族 その9

第四章 第一回保育園クリスマス会


          1


 お盆休みになると雅之、夕子、隼人の三人はサイパンに行くため十六日の朝、車に乗って船橋市にあるアンデルセン公園に行った。アンデルセン公園で昼食を摂ったり、公園内を見学したりしてから、また車に乗って成田まで行き、成田駅前のホテルに泊まった。そして翌日の朝、サイパン行きの飛行機に乗った。ということで、雅之、夕子、隼人がサイパンから帰って来るのは二十日の予定である。

 家に残った源一郎と和子は、保育園の送迎をしなくていいものの、やはり孫の顔が見られない寂しさというものがあったようだ。と言ってもたったの四日間だから、福山夫妻のことを思えば、贅沢は言っていられない。真夏の暑い日にも関わらず、元気に過ごしている祖父母ではある。

 そして、二十日の夜八時頃に、車の音と共に雅之、夕子、隼人が帰って来た。雅之がカースペースに車を停めてから、三人は東玄関から家の中に入った。そして一階のリビングに来るなり隼人が、

「ただいま、プール、プール」

 と言うと雅之が、

「只今、隼人は初めてのプールなので、はしゃいでいました。こんなに小さいのに、元気が良すぎて外人もびっくりしていたね」

 続いて夕子も、

「隼人の子守りで大変だったわ。天気も良かったし、カラッとしていたから、凌ぎやすかったわ」

 と言った。三人の日焼けした顔を見て和子が、

「あら、隼人君も顔が少し黒くなったみたいだわ。ちょっとばかり、たくましくなったみたいよ」

 と言ったので源一郎が、

「隼人は片言なら、しゃべれるようになったから、楽しかったのだろう」

 暫らく立ち話をしてから、雅之たちは二階に上がって行った。


 夏の暑さも和らぎ九月になると、隼人は伊豆高原旅行や初めての海外旅行などで体調を崩し、三日ほど保育園を休んだ。とは言っても、本人にはそんな自覚がないから、すぐ元気になり祖父母と一緒に保育園に行った。そして保育園から帰って来ると、夕子が知り合いからもらったプラレールを組み立てて遊ぶようになった。また言葉もかなり覚え、自分から積極的にしゃべるようになった。

 土曜日や日曜日になると、隼人は祖父母と一緒にアンパンマンの三輪車に乗って、住宅地の周りを一周したり、近くの公園に行ったりした。そして夕方になると、雅之と一緒に野菜やお花、芝生などの水撒きを手伝っていた。さらに夕食が済むと、一階に下りて来て祖父母と遊んだり、時には源一郎が数年前に購入した全国鉄道路線図という本を、祖父母と一緒に見たり、源一郎のパソコンデスクに向かって、コピーの裏上に色鉛筆で落書きしたりしていた。

 それから二か月間ほど隼人は、祖父母に連れられて元気に保育園に通っていたが、保育園の室内にある滑り台に耳の周りをぶつけて赤く腫れたり、左手に傷をつけたりで、祖父母が小児科に連れて行った。幸いに軽い怪我だったので、保育園を休むようなことはなかった。また家の階段から落ちたことがあったが、隼人は少し泣いただけで大事には至らなかった。

 また隼人は、紙おむつをしているせいか、もうじき二歳になるというのに、おむつは取れない状況だった。祖父母が二人の子供を育てていた時は布おむつだったので、一歳半でおむつが取れていたようだ。昔と今では、赤ちゃんの育て方が異なっているから、致し方ないのかもしれない。紙おむつのほうが清潔で、さらに布おむつのように洗濯しないで済むから便利ではある。

 というように、おおむね隼人は二歳の誕生日を迎えるまで、元気に保育園に通っていたし、身長と体重も順調に増えていった。


          2


 十二月十日は隼人の二歳の誕生日だが、十二日(土曜日)は保育園で午後三時からクリスマス会があり、福山夫妻も来ることになっている。したがって、隼人の誕生会を十二日正午に行なうことになった。雅之と夕子は隼人の子守をしながら、昼食の料理を作り始めた。一階にいる源一郎と和子は十時になると、近くのお菓子屋に行って、注文したバースデイケーキを持って来た。

 そして、十一時半になると、福山夫妻が車に乗ってやって来た。車を家の前に停めて二階に上がって行ったので、源一郎と和子も二階に上がって行き、お互いの挨拶が交わされた。

 長いテーブルには左右に椅子が三個ずつ、そして上座には隼人のベビーチェアが置いてあった。いつもの形でみんなが椅子に腰掛けると、雅之より料理の説明があり、テーブルの真ん中に置いてある唐揚げや肉野菜炒め、お刺身、グラタン、ハンバーグなどを各人が小皿に取り始めた。隼人の食べる物は、夕子が小皿に取ってあげた。それから和子が源一郎と正に、利律子が雅之と夕子にお茶を注いだ。そして和子と利律子はお互いにお茶を注いだ。全員が揃ったところで雅之が、

「それでは、これから昼食にしましょう。隼人のクリスマス会は三時からなので、二時四十分に車で行きます。隼人のバースデイケーキは二時に食べる予定です」

 と言ったので、みんなは小皿に盛った料理を食べ始めた。少し食べたところで和子が、

「保育園のクリスマス会で、隼人は何をやるのかな?」

 と訊くと夕子が、

「まだ二歳になったばかりなので、名前を呼ばれたら同じ二歳児と一緒に、返事をして立っているだけかもしれないわ」

 との言葉に利律子が、

「上手く返事ができるかしら。大勢の前で緊張しちゃうかも」

 と言ったので雅之が、

「保育園の先生の話だと、泣く園児もいるということだけど」

 それに源一郎が続いた。

「そうか。隼人が泣かないようお祈りしておこう」

「まあ、隼人君は二回も六ポケット旅行に行ったし、サイパンに行っても人見知りしなかったから大丈夫だろう」

 と正が言って、箸を手に持ってから揚げを口に運んだ。

 一時を過ぎたところで昼食が終わり、みんなはお茶を飲みながら、一時間くらい雑談をしていた。隼人はトミカのプラレールを組み立てて遊んでいた。

 二時になるとテーブルには、バースデイケーキが置かれ、隼人の誕生会が始まった。みんなが椅子に腰掛けると、雅之がバースデイケーキの蝋燭六本に火を点けた。すると隼人がちいさな手を合わせ片言で、

「ハッピーバースデイ、・・・・・・」

 と言って椅子から立ち上がり、何度も口を窄めて息を吹きかけた。何とか二本だけ消えたので、残りの四本は雅之と夕子が消した。蝋燭の火を消し終ると全員、「おめでとう」と言ってから拍手して、隼人の二歳の誕生日を祝った。早速、雅之と夕子は、バースデイケーキを小皿に分けてみんなに配った。隼人がスプーンでケーキを口に運び、

「おいしい。おいしい」

 と言って食べ始めると、大人たちもいっせいにケーキを食べ始めた。雅之と夕子はもちろん、源一郎と和子、そして正と利律子の老夫婦も、三世代七人でバースデイケーキを食べるのは初めてのことである。これが六ポケットの微笑ましい姿なのであろうか。大人たちの大満足の笑顔が踊っていた。そして大人たちは隼人の喜ぶ笑顔を見て、心が大いに癒されたということは言うまでもなかった。

 その後、二時半に誕生会が終わったので、夕子と利律子が後片付けを済ませた。源一郎と和子は一階に下りて戸締りを。雅之と隼人、正と利律子、最後に夕子が階段を下り、東玄関から外に出て鍵を掛けた。二台の車に分乗して、みんなは保育園に向かった。


 十分ほどで成瀬駅近くにある保育園の駐車場に着いた。雅之と正は車を停めて、みんなは三階建てのビルの二階にある保育園の中に入って行った。五十坪ほどある会場の前方には、保育園の先生が五人くらいと、百人くらいの園児が慌ただしく動いていた。そして会場の前壁には、園児の思い出の写真が貼られており、大きなクリスマスツリーも置いてあった。さらに天井にもクリスマスの飾り物が吊るされていた。これらを目にした雅之たちは、いやが上にもその雰囲気に顔がほころんできた。

 会場の真ん中には両親たちや祖父母、それに園児の兄、姉と思われる子供たちの姿もあった。前から五列くらいまでの人たちは行儀良く座っており、後ろにいる人たちは立ったままの状態で、これから始まるクリスマス会を見ていた。雅之たちが入って来た時は、かなりの人が来ており、立ち見の状態だった。源一郎がすでに来ている人たちを見て言った。

「まれに祖父や祖母の姿はあるものの、俺たちのような六ポケットはいないようだ」

「そうね。それと二人揃っての祖父母もいないようだわ」

 和子が言うと利律子は、

「私たちだけで六人も来たのだから、祖父母の方が多く来られると、入れなくなっちゃうわね」

 今度は正が周りを見てから、

「まだ三十人くらいは入れるだろうから、これでよしとしよう」

 と言った時に保育士の女性が、マイクを持って開会の挨拶を始めた。

 挨拶が終わると、四人の母親がゼロ歳児を抱いて舞台に登場し、床に腰を下ろした。それを見て保育士が、四人の園児たちを紹介した。紹介が終わると、会場に来ている人たちから拍手が送られた。四人のゼロ歳児は当たり前のことだが、黙っているだけだった。

 次は一歳児から二歳児の登場で、隼人が出てくる番である。隼人は二日前に二歳になったばかりで、呼ばれたら上手く返事ができるのか両親はもとより、四人の祖父母たちも何か不安そうだった。二十人くらいの園児が舞台の壁の前に整列し、保育士が順番に名前を告げた。名前を呼ばれた園児は、「はい」と言って、舞台の前に進み、両手に持っている飾り付けのリングを上手に振っていた。

 三番目に隼人が呼ばれ、同じように「はい」と言って、先に来ている園児の隣に来て、飾り付けのリングを振っていた。隼人は両親や祖父母の姿を見て、笑っているようだったので、雅之はカメラで写真を、源一郎はスマホをビデオ画面にして、隼人を撮っていた。こうして全員が紹介されると、中には泣き出した園児が数人おり、どことなく会場には笑い声がおきていた。その光景をスマホで撮っている両親たちもいた。

 それから三歳児たちがクリスマスの歌を合唱し、四歳児と五歳児たちの寸劇もあった。さすがに四歳児以上ともなれば背丈も高く、中には小学一年生かとも思われる園児もいた。

 一通り保育園児たちの出番が終わると、サンタクロースの衣装を身に着けた男性保育士が、クリスマスプレゼントが入った大きな袋を担いで、舞台の前に登場した。司会の女性保育士がサンタさんを紹介すると、一歳児から順番にサンタさんの所に行って、クリスマスプレゼントをもらっていた。

 二歳児の番になると、隼人はサンタさんの所に行き、キャンディー入りサンタの靴をもらって、ニコニコしながら両親のいる所に持って来た。周りの人たちはと見ると、サンタさんからもらったプレゼントを、持って来て両親の側に来たり、写真を撮ったりしていた。

 こうしてサンタさんからのプレゼントが終わると、園児たちと両親たちも食事室に集まり、小皿に盛ってあるクリスマスケーキを頂くことになった。長い座卓の上には、クリスマスケーキのほかにお茶やジュースも用意されていた。源一郎と和子、正と利律子を初め祖父母たちは、食事室に入れないので源一郎が言った。

「隼人君にとっては、バースデイケーキとクリスマスケーキが一緒になってしまった」

「そうね。隼人君は年末が一番楽しいかも。本人は何も分からないけど」

 和子が言うと利律子は、

「来年の誕生日になれば、誕生日とかクリスマスは分かるようになるわ」

 今度は正が、

「そろそろ、隼人君、お年は? と言って、練習しないと」

「それじゃ、その役目は私たちだわ」

 と和子が言って、源一郎に目を向けた。

 園児たちは、クリスマスケーキを食べ終わると会場の前に集まり、保育士の閉会の挨拶で、保育園クリスマス会が無事終了した。雅之が時計を見ると五時十分前だった。日が沈むのが早いせいか、外はもう真っ暗だった。

 雅之たちは保育園の駐車場に戻って来た。福山夫妻は車で狛江市の自宅に、雅之と夕子、隼人、そして源一郎と和子は、雅之の車で自宅に向かった。

その10に続く。



[PR]
by stone326 | 2018-02-11 08:37 | 物書きへの道


マカロニ・ウエスタンの歌詞とその魅力について


by stone326

プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

このブログについて

本ブログはマカロニ・ウエスタンの映画の主題歌(日本語訳)を紹介します。

本ブログの歌詞は、株式会社IMAGICAエンタテイメント発売のDVDから使用しています。

本の紹介

FLNG船 二〇二二年


ご注文はこちらから


北極熊はどこへ行ったの(第一部)


ご注文はこちらから


勇と美穂のスマホ渡り鳥


ご注文はこちらから

ライフログ


マカロニ・オヤジとつぶやきの用心棒(一)


マカロニ・オヤジとつぶやきの用心棒(二)


ジュリアーノ・ジェンマ特集


フランコ・ネロ特集

カテゴリ

全体
物書きへの道
各駅停駅メロ小説
マカロニ・ウエスタンの歌詞
北極熊はどこへ行ったの
未分類

最新の記事

(57)朝日新聞出版 「マカ..
at 2018-05-13 09:44
(56)朝日新聞出版 マカロ..
at 2018-04-27 08:39
(31)「北極熊はどこへ行っ..
at 2018-02-25 08:25
(30)「北極熊はどこへ行っ..
at 2018-02-24 08:11
(29)「北極熊はどこへ行っ..
at 2018-02-23 08:37

以前の記事

2018年 05月
2018年 04月
2018年 02月
2018年 01月
2016年 12月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 01月
2015年 10月
2015年 03月
2015年 02月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2013年 12月
2013年 08月
2012年 11月

検索

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

映画
シニアライフ

画像一覧